歌花史庵 かかしあん

碧眼の管理人(仮題)

一月の半ば、コクチョウが飛来しているとの情報を得て
SJ公園に撮りに行った。

大勢集まった人々は皆、大きく麗しいコクチョウのカップルに釘付けだった。

その池の中にポツンと、同じく黒い大きな影がある事に
気づく人はほとんどいなかったと思う。

背の高いモニュメント。

いつからあるのか知らないが、白い表面はうっすらと汚れ
水をかぶる所には藻が生えている。

そのてっぺんに、一羽のカワウがいた。
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エメラルドのような美しい瞳。
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彫像のように動かない彼の姿に
オスカー・ワイルドの幸福の王子を思い出した。

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「何してるって、おれはここの管理人だからね。
 管理をするわけじゃない、子どもたちを見てるんだ」

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「色々あったこともあるさ、でも見なよ、おれの頭」

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「ここが黒かった頃は、阿修羅にもなったし人も喰ってやろうかと思うこともあった」

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「でもさ、もう頭真っ白じゃない」

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「正直なところ、煩わしいって気持ちでもある。
 若いってのは煩わしいもんだよ」

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「だから、頭が白くなったことに気づいた時、ほっとしたような気がしたんだ」

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「おれの目をくれてやれば、幸せになれる人がいるなら、くれてやってもいいよ。
 でもなんだって、磨かなければ曇っちまうんだ」

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「ちゃんと磨ける奴にじゃないと、やる気はしないね」

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「これを誰かにやるのは、最後の最後でいい」

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「今はまだ、この目を使って、子どもたちを、ここに来る人たちを見ていようと思う」

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初めは孤独に埋没する姿に見えた。

しかし彼の言葉を聞くうちに、このエメラルドのような瞳で
自分の居場所をここと定め、その中での仕事を模索していることがわかった。
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日が暮れ、人々が公園を去ってゆく頃
彼の姿は一層黒く、夕日の中に浮かび上がった。

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彼の頭が白髪ではなく、婚姻色であることは
最後まで言えなかった。
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生涯現役ガン( ゚д゚)ガレ


*フィクションです





吉野弘

I was born


 確か 英語を習い始めて間もない頃だ。

 或る夏の宵。父と一緒に寺の境内を歩いてゆくと 青い夕靄の奥から浮き出るように 白い女がこちらへやってくる。物憂げに ゆっくりと。

 女は身重らしかった。父に気兼ねをしながらも僕は女の腹から眼を離さなかった。頭を下にした胎児の 柔軟なうごめきを 腹のあたりに連想し それがやがて 世に生まれ出ることの不思議に打たれていた。

 女はゆき過ぎた。

 少年の思いは飛躍しやすい。その時 僕は〈生まれる〉ということが まさしく〈受身〉である訳を ふと諒解した。
僕は興奮して父に話しかけた。
――やっぱり I was born なんだね――
父は怪訝そうに僕の顔をのぞきこんだ。僕は繰り返した。
――I was born さ。受身形だよ。正しく言うと人間は生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだね――
 その時 どんな驚きで 父は息子の言葉を聞いたか。 僕の表情が単に無邪気として父の眼にうつり得たか。それを察するには 僕はまだ余りに幼なかった。僕にとってこの事は文法上の単純な発見に過ぎなかったのだから。

 父は無言で暫く歩いた後 思いがけない話をした。
――蜉蝣(かげろう)という虫はね。生まれてから二、三日で死ぬんだそうだが それなら一体 何の為に世の中へ出てくるのかと そんな事がひどく気になった頃があってね――
 僕は父を見た。父は続けた。
――友人にその話をしたら 或日 これが蜉蝣の雌だといって拡大鏡で見せてくれた。説明によると 口は全く退化して食物を摂るに適しない。胃の腑を開いても 入っているのは空気ばかり。見ると その通りなんだ。ところが 卵だけは腹の中にぎっしり充満していて ほっそりした胸の方にまで及んでいる。それはまるで 目まぐるしく繰り返される生き死にの悲しみが 咽喉もとまで こみあげているように見えるのだ。淋しい 光りの粒々だったね。私が友人の方を振り向いて〈卵〉というと 彼も肯いて答えた。〈せつなげだね〉。そんなことがあってから間もなくのことだったんだよ。お母さんがお前を生み落としてすぐに死なれたのは――。

 父の話のそれからあとは もう覚えていない。ただひとつ痛みのように切なく 僕の脳裡に灼きついたものがあった。
――ほっそりした母の 胸の方まで 息苦しくふさいでいた白い僕の肉体――。


註 終りから11行目、〈淋しい 光りの粒々だったね〉は、『幻・方法』に再録のとき、〈つめたい光りの粒々だったね〉に改めました。

「消息」(昭和32)所収



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中村万平「霜子」
無言館(長野県上田市)所蔵

中村万平は我が子を身籠った妻、霜子を描いたあと出兵、戦死した。
霜子も出産後まもなく病死。

あたしがこの絵を知ったのは、TVで無言館の特集を見た時だった。
あたしの父ほどの年齢の男性が、父と母の温もりを探すように
この絵を見詰めていたのが印象的だった。

男性はこの時、霜子の腹の中にいた長男。

幼子のようなあどけない顔をして、母の姿を見ていた。

調べてみると、中村万平は浜松の大きな造り酒屋の息子だった。

上田はあたしの祖母の故郷。
小学生の頃、母と祖母と、生家を探す為に上田を旅した。

手掛かりは、向かいにあった造り酒屋。

タクシーの運転手が仲間に無線で尋ねてくれ、造り酒屋に辿り着いた。

砂糖漬けの杏を戴きながら、お嫁さんの話を伺ったが
残念ながら、あたしはほとんど覚えていない。

おじが潰した祖母の家は、大きな門だけが残っていた。

10年ほど前、兄も門を見に上田に行ったと云う。
祖母はその時既に、鬼籍に入っていた。

上に載せた吉野弘氏の詩は、教科書で習ったもの。

作者や表題はおろか、文章もろくに覚えていなかったが
わずかな単語でなんとか探し当てた。

「霜子」も、無言館と云うキーワードだけで画像を探した。

ずっとどこかに引っかかっていたこれらの作品に、改めて触れてみたいと思った。


祖母、松子のことは、いつか書いてみたいと思う。
認知症が進み陽気な人格に変わるまで
引っ込み思案で要領の悪い、明治生まれのお嬢さんだった。

祖母自身は、周りに押し潰されて生きていることに
気づきもしなかっただろう。

けれど、それでも、詰まらない人生なんてない。

祖母はクリスチャンだった為に、法事は一度もしたことがない。


母と云う存在を考えた時、すぐに思い浮かぶのはなぜか、祖母の生涯。

法事代りに、いつか書いてみるか。



以上、追記でした。



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無理あり過ぎ( ;谷)
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by ekoekolove | 2010-03-02 09:51 | 繪子譚日日新聞